ロシア軍のウクライナ侵攻が続く中、経済制裁やそれに対する対応措置によって、北方領土をめぐる日本とロシアの問題も溝が深くなっています。
そもそも「北方領土の問題」とはどのようなものなのでしょうか?
できるだけわかりやすく解説します。
目次
北方領土問題とは?
北方領土とは「択捉島(えとろふとう)」、「国後島(くなしりとう)」、「色丹島(しこたんとう)」、「歯舞諸島(はぼまいしょとう)」の4つの島のことを指します。
(※歯舞諸島は複数の島から成り立っていますが、北方領土問題では1島として扱われます。)
北方領土の位置は以下の地図のとおりです。
地図の代表地点が「択捉島」を指しています。
地図の南西側(左下)に北海道があることをご確認ください。
この択捉島から北海道の間までの島々が北方領土と呼ばれる島々です。
そして、北方領土問題とは、この「北方領土」が日本とロシアどちらのものなのかという領土問題のことです。
北方領土には今誰が住んでいる?
北方領土には、現在、ロシアの人々が住んでいます。
4島合わせておよそ1万8000人のロシア人が居住していると言われています。
もともと北方領土には、先住民であるアイヌの人々が住んでいました。
江戸時代後期になるとアイヌ以外の日本人も居住するようになります。
第二次世界大戦のころには、日本国民1万7000人が住んでいたとされています。
ロシア人はもともと一人も居住していなかったと言われていますが、第二次世界大戦が終了した1945年以降、日本人の代わりにロシア人が居住し、現在に至っています。
北方領土の歴史
そもそも日本は江戸時代まで北の境の認識が曖昧でした。
北方領土の存在を認識した記録も、江戸時代ごろになってようやく出てきます。
1644年に江戸幕府が作成した地図に、曖昧ではありますが「クナシリ」「エトロホ」などの島が登場します。
そのころの北方領土にはアイヌの人々が暮らしていましたが、次第に江戸幕府の影響力が強くなっていきます。
江戸時代後期~
18世紀になると、ロシアが南下してくるようになります。
以降、ロシアと江戸幕府の間で、北方領土を含む「北海道の北にある島々」の取り合いが続きます。
交渉は難航しましたが、1855年に「日露和親条約」という条約が結ばれます。
この条約の中で、択捉島、国後島、色丹島、歯舞諸島(=北方領土)が日本の領土、それより北がロシアの領土という取り決めがなされます。
この条約では北海道とロシアの間にある一番大きな島、「樺太(サハリン)」については国境を設けず「両国民の混在の地」とすることも決められていました。
しかし、両国民混在の状態では争いが絶えなかったため、明治維新を経て1875年、「千島・樺太交換条約」という条約が結ばれます。
この条約によって、ロシアは樺太(サハリン)を自国領とし、代わりに「樺太以外の北海道とロシアの間にある島のほぼすべての島」が日本領となります。
さらに、その後日本は、日露戦争の勝利によって、樺太の南半分を領土として手に入れます。
第二次世界大戦後
第二次世界大戦中、日本と当時のソ連は「日ソ不可侵条約」という条約を結んでいました。
これはお互いに攻め込みませんという内容の条約です。
しかし、ソ連はこの条約を破棄して侵攻を開始します。
ソ連の侵攻は、日本が降伏した1945年8月15日以降も続き、9月5日には北方領土を占領しました。
以降、北方領土はソ連、及びその継承国であるロシアが実行支配を続けています。
なお、南樺太と千島列島(北方領土の北の島々)は、戦後のサンフランシスコ講和条約によって日本の領有権が放棄されています。
北方領土に関する両国の主張
北方領土に関する両国の主張は真っ向から対立しています。
日本の主張
「4島は日本固有の領土であり、ロシアが不法占拠している」というのが日本政府の主張です。
「『日露和親条約』で北方領土は日本の領土と確定した、しかし、その後日ソ不可侵条約を破って侵攻をしたソ連が不法占拠を続けている」、という主張です。
「昔結んだ約束を守ってください」という立場です。
アメリカ、EU、中国などは、日本の主張を支持しています。
ロシアの主張
「4島はロシアの領土であり、日本が不当な領有権の主張を行っている」というのがロシアの主張です。
ロシアとしては、「北方領土は第二次世界大戦で勝ち取った領土」であるとの認識です。
「その昔、領土を決める約束は結んだが、その後力ずくで手に入れたから返す必要はない」という立場です。
北方領土は国際的にはどうなっている?
北方領土に関しては、国際法上の領有根拠がどちらの国にもありません。
ロシアの主張は「奪い取った」です。
これは力ずくで現状を変えてしまう行為であり、もちろん法的な根拠はありません。
ただ、日本も「サンフランシスコ講和条約」で「千島列島」の領有権を放棄した際、「千島列島」の範囲を明確にしませんでした。
このため、「サンフランシスコ講和条約」で「北方領土」も放棄したのか・していないのかが曖昧なままです。
そういった事情があり、現在、国際的に北方領土は帰属未定地という取り扱いです。
つまり、今のところ正式には、北方領土はどの国にも属していない状態です。
戦後、長い時間をかけて、少しずつ北方領土問題は解決に向けて話し合いが行われてきました。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻、それに対する日本の経済制裁などの影響で、北方領土問題の見通しは立たなくなっています。
そんな中、あるロシアの有力議員が「北海道はロシアのものである」という趣旨の発言をし、注目を浴びました。
これまでは、日本の中で「北方領土も尖閣諸島もあげてしまえばいい」と領土問題に対して投げやりな意見も一定数ありましたが、「そのような選択をした場合、次にどのようなことが起こり得るか」ということまで考えなければなりません。