大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に北条泰時という人物が登場します。
主人公・北条義時の嫡男で、だんだん闇に染まっていく義時とは対比的に純粋な青年として描かれています。
彼は後に「御成敗式目(ごせいばいしきもく)」という法律を制定することになります。
この法律は非常に優れており、明治時代に近代法が制定されるまで武家の基本法として有効であり続けたとされています。
また、後述する第8条は現在も適用されているの民法の規定の元になったとする説も存在します。
(※20年間の占有で時効取得ができるとする規定)
これほど長く活躍した御成敗式目の内容を簡単にご紹介します。
目次
- 1 御成敗式目の基本情報
- 2 御成敗式目の内容
- 2.1 第1条 神社を修理し、祭祀を大事にすること
- 2.2 第2条 寺を修理して日々の仏事のつとめに励むこと
- 2.3 第3条 諸国の守護の仕事について
- 2.4 第4条 守護が勝手に罪人から所領を取り上げてはならない
- 2.5 第5条 年貢を納めない地頭の処分
- 2.6 第6条 国司や領事の裁判には幕府は介入しない
- 2.7 第7条 所領の扱いについて
- 2.8 第8条 土地を占有したときのこと
- 2.9 第9条 謀反人について
- 2.10 第10条 殺人・傷害について
- 2.11 第11条 夫の罪で妻の領地が没収されるかどうかについて
- 2.12 第12条 悪口のこと
- 2.13 第13条 暴力をふるうことの罪
- 2.14 第14条 代官の罪がその主人に及ぶ場合
- 2.15 第15条 文書偽造の罪
- 2.16 第16条 承久の乱のときに没収した領地
- 2.17 第17条 親子が同じ合戦で敵味方にわかれて戦った場合
- 2.18 第18条 女子に相続させた所領の返還
- 2.19 第19条 忠実を装っていた家来が主人の死後に態度を変えた場合
- 2.20 第20条 譲り状を書いた後、子供のほうが先に亡くなった場合
- 2.21 第21条 離別した妻や妾に与えた領地について
- 2.22 第22条 離縁した前妻との間の長男に与える財産
- 2.23 第23条 女性の養子のこと
- 2.24 第24条 再婚後の後家の所領
- 2.25 第25条 御家人の婿となった公家
- 2.26 第26条 相続した土地を別の子供に相続させ直すこと
- 2.27 第27条 未処分の財産の分配
- 2.28 第28条 ウソの訴えの禁止
- 2.29 第29条 他の裁判官への依頼
- 2.30 第30条 有力者の書状で裁判を有利にすすめることの禁止
- 2.31 第31条 判決への不服と偏った判決の禁止
- 2.32 第32条 犯罪者をかくまうことの禁止
- 2.33 第33条 強盗と放火
- 2.34 第34条 人妻と密会することの禁止
- 2.35 第35条 裁判所からの呼び出しに応じない場合
- 2.36 第36条 境界線を改ざんして訴えを起こす者について
- 2.37 第37条 朝廷の領土を奪うことの禁止
- 2.38 第38条 惣地頭が荘園内の他の領地を奪うことの禁止
- 2.39 第39条 官位・官職を望む場合
- 2.40 第40条 鎌倉の僧侶の官位
- 2.41 第41条 身分の低い人々のこと
- 2.42 第42条 逃亡した農民の財産
- 2.43 第43条 他人の領地と年貢を奪うことの罪
- 2.44 第44条 係争中の土地について
- 2.45 第45条 判決前の免職
- 2.46 第46条 国司交代時に関すること
- 2.47 第47条 領地寄進について
- 2.48 第48条 所領売買の禁止
- 2.49 第49条 両者の提出した文書だけで判決が出る場合
- 2.50 第50条 暴力事件への参加
- 2.51 第51条 被告人を脅すことの禁止
御成敗式目の基本情報
御成敗式目が制定された当時、武士であっても識字率(字が読める人の割合)は低かったとされています。
合戦で書状が届いても「誰か字の読める者はいるか」と字の読める人間を探すくらいでした。
そのため、すべての武士に理解できるようにわかりやすくする必要がありました。
条文は全部で51条。
これは聖徳太子が作ったとされる「十七条の憲法」を意識しており、「17条の3倍」で51条になったと言われています。
なお、「御成敗式目」はあくまで幕府に所属する人間に対してのみ適用されました。
日本国民全員に適用される法律ではありません。
御家人の権利義務や、土地の所有・相続などの規定が多いのが特徴です。
代表的なものには、次のような規定があります。
- 夫に先立たれた妻が再婚する場合、亡き夫から譲渡・相続した土地は、亡き夫の子供に与えられることが義務付けられた
- 相続によって貴族が武士の土地を手に入れることを予防するため、貴族を娘婿にすることが禁じられた
- 争いの原因となる悪口を禁止し、特に訴訟の相手の悪口を言った場合は、その時点で裁判に負けることが定められた。
御成敗式目の内容
御成敗式目の全文、51条の内容を簡単に要約して記載します。
かなり要約していますので、厳密に言えば正確な内容ではありませんが、大体こういう意味ということでご参考までにご覧ください。
第1条 神社を修理し、祭祀を大事にすること
神社を大事にして修理し、お祭りを盛んに行うことは大事なことであるとしています。
そうすることによって人々が幸せになるからです。
第2条 寺を修理して日々の仏事のつとめに励むこと
これは僧侶に対しての条文です。
寺の管理をしっかりと行い、日々のおつとめに励むようにと記されています。
第3条 諸国の守護の仕事について
守護の主な仕事は大番催促(朝廷の警護を御家人に命じること)と謀反人や犯罪者の取締です。
「それ以外の勝手な振る舞いはするな」と守護の暴走を牽制しています。
守護の中には勝手に村人に対して思うがままの命令を出したり、税を勝手に集めたりする者があったとされていますが、それを明文で禁止しました。
第4条 守護が勝手に罪人から所領を取り上げてはならない
重罪人は慎重に取り調べた上で、幕府に報告し、その指示に従うようにとされています。
罪人からであっても、守護が勝手に所領を取り上げることは禁止しています。
第5条 年貢を納めない地頭の処分
年貢を本所(※荘園の持ち主)に納めない地頭は、本所の要求があればすぐに従って年貢を納めるようにとされています。
不足が多く納めきれない場合は、3年以内に納めるようにとし、これに従わない場合は地頭は解任されました。
第6条 国司や領事の裁判には幕府は介入しない
幕府の管理下にない国司や領事などが行う裁判には、推薦状などがないかぎり幕府が介入してはならないという内容です。
第7条 所領の扱いについて
源頼朝をはじめ「鎌倉殿」から与えられた所領は、罪を侵さない限り失うことはないとします。
その土地の領主などが「先祖代々の土地」として訴えたとしても、その所領は戦などの働きによって鎌倉殿から与えられた土地であり、それに対して不服を申し立てることは認めないとされています。
第8条 土地を占有したときのこと
御家人が20年間支配した土地は元の持ち主(※貴族や寺院など)に返す必要はないとします。
ただし、その支配が書類上のものだけで現実には支配していなかった場合、この規定は適用されません。
なお、この規定は現在の民法第162条と似ているため、民法を制定する際の参考にされたのではないかといわれることもあります。
民法 第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
第9条 謀反人について
謀反の刑罰を詳しく定めることはせず、過去の事例を調べて裁きを下すとしています。
第10条 殺人・傷害について
たとえ酔った勢いや、言い争った結果でも相手を殺したり傷つけたりしたら殺人・傷害の罪になるとしています。
殺人を犯したら基本的には死罪か流罪のうえ財産没収とされました。
なお、子が偽りの仇討ちをした場合、無関係であってもその父や祖父も同罪とされました。
第11条 夫の罪で妻の領地が没収されるかどうかについて
重罪の場合は夫の罪であっても妻の領地は没収されるとしています。
ただし、夫が誤って相手を傷つけたり殺してしまった場合、妻の領地までは没収されないと規定されています。
第12条 悪口のこと
悪口は争いのもととなるので、禁止されていました。
軽い場合でも牢に入れられ、重くなると流罪にされました。
また、裁判中に相手の悪口をいった場合、すぐにその者の負けというルールもあります。
第13条 暴力をふるうことの罪
御家人が暴力を振るった場合、領地は没収されます。
領地がない者は流罪とされ、御家人以下の身分であれば牢に入れられると規定されていました。
第14条 代官の罪がその主人に及ぶ場合
代官(※主君の代わりの者)が罪を犯した場合、主人はそのことを報告すれば無罪となります。
しかし、主人が代官をかばって報告をしなかったなら、主人は領地没収、代官は入牢とされました。
第15条 文書偽造の罪
偽りの文書を作った者は、領地没収とされ、領地を持たない者ならば流罪とされました。
たとえ誰かから頼まれて文書を偽造したとしても、その者は首謀者と同罪となります。
第16条 承久の乱のときに没収した領地
承久の乱で領地を没収されたもののうち、後に謀反人でなかったことが証明された者に関しては領地が返還されました。
御家人であるのにもかかわらず、幕府に反旗を翻した者については死罪のうえ、財産を没収するとしています。
ただし、これより以後(※御成敗式目制定以降)に朝廷側についていたことが判明した者については、その罪を許し、財産の5分の1の没収で済ますことにするとしています。
第17条 親子が同じ合戦で敵味方にわかれて戦った場合
御家人の場合は、「承久の乱」で父と子が朝廷側と幕府側に分かれて戦った場合、幕府側についた父もしくは子には恩賞を与えるとされ、朝廷側についた父もしくは子には罰が与えられることになっていました。
しかし、西国武士の場合、どちらかが朝廷側についていたのなら幕府側についた者はスパイとして両者共に罰せられることとされています。
なお、西国武士の場合でも、父と子で互いに連絡がつかなかったなどの事情があれば幕府側についた父もしくは子には罰は与えられないという減免規定もありました。
第18条 女子に相続させた所領の返還
それまでは女子に所領を相続させた場合、その女子には所領を返還する義務がありませんでした。
その義務を無くし、男女で平等な取り扱いを定めています。
第19条 忠実を装っていた家来が主人の死後に態度を変えた場合
主人存命中は忠実に働いて財産をもらった家来が、主人の死後にその恩を忘れて子供らと争った場合、その家来の財産を没収し、主人の子供らにすべてを与えるという仕組みがありました。
第20条 譲り状を書いた後、子供のほうが先に亡くなった場合
財産を譲るつもりで譲り状を書いた後に、その子供のほうが先に亡くなってしまった場合、先に書いた譲り状を無かったものとして新たに相続人を決めて良いとされました。
この規定は、現在の民法と似ており、現在では「遺言を書いた後にさらに別の遺言を書いた場合」、後の遺言が優先されることになっています。
第21条 離別した妻や妾に与えた領地について
離別した妻や妾に大きな落ち度があった場合、前夫から譲り受けた土地を持つことは出来ませんでした。
また逆に、離別した妻や妾に何の落ち度も無かった場合は、前夫は土地を取り返すことが出来ませんでした。
第22条 離縁した前妻との間の長男に与える財産
家のためによく働いたにもかかわらず、後妻やその子らに追い出されてしまった前妻との間の子には、その家を継いだ者の5分の1の財産を与えることが義務付けられています。
第23条 女性の養子のこと
「夫婦に子供がなく、夫が亡くなったあとに妻が養子を迎えて領地を相続させること」が問題ないことであると明文で認めています。
第24条 再婚後の後家の所領
夫の死後、妻はその菩提を弔うようにとの規定です。
死別後すぐに再婚するのは良くないとされ、再婚する場合は「元夫の子」に領地を与えなければならないとされました。
第25条 御家人の婿となった公家
公家出身といえども、武士としての役目を果たすように、とされました。
相続をすれば自身が御家人として働くことを義務付け、実家の権威を借りて勝手な振る舞いをすることを禁止しています。
第26条 相続した土地を別の子供に相続させ直すこと
御家人が子供に土地を相続させ、その証明書を将軍からもらっていたとしても、父母の権限でその土地を他の子供に相続しなおさせることが可能であるとされています。
第27条 未処分の財産の分配
御家人が相続のことを何も決めずに死亡した場合、働きや能力に応じて妻子に分配することとの規定がされています。
第28条 ウソの訴えの禁止
ウソをついて訴訟を起こすことを禁止しています。
土地を望んでウソの訴えを起こしたら「領地没収」もしくは「流罪」とされ、役職を望んでウソの訴えを起こしたら「その役職に就くことはできなくなる」というペナルティーが与えられます。
第29条 他の裁判官への依頼
本来、裁きを担当するべき裁判官がいるのにもかかわらず、有利に事を進めたいがゆえに別の裁判官に依頼をしたことが判明した場合、その裁判を停止し調査を行うとされています。
また、係の者にもそのようなことが起こらないように、二重の取次を禁止しています。
第30条 有力者の書状で裁判を有利にすすめることの禁止
有力者の書状を提出して裁判を有利に進めるようなことをしてはならないとしています。
有力者を知る者が得をするという不公平が起これば裁判の意味がなくなるからです。
第31条 判決への不服と偏った判決の禁止
裁判に負けた者が事実ではないにも関わらず、偏った判決であると不服を申し立てた場合、領地の3分の1を没収されました。
もしくは領地がなければ追放となります。
ただし、もし本当に偏った判決が行われた場合は、その裁判官を辞めさせ、二度と裁判官に就けてはならないという規定もありました。
第32条 犯罪者をかくまうことの禁止
地頭は領内に犯罪者がいることが分かったらすぐに逮捕するようにという規定です。
また、地頭がその犯罪者を匿った場合、地頭もその犯罪者と同罪とされました。
地頭が犯罪者をかくまっているとの疑いが持たれたら、鎌倉にて取り調べを行うこととされています。
第33条 強盗と放火
強盗は断罪(※首をはねること)、放火犯も強盗と同じあつかいであると規定されています。
実際には罪の重さによって入牢だけで済ませることもあったようです。
第34条 人妻と密会することの禁止
人妻と密通した御家人は、領地の半分を没収されます。
所領を持たない者の場合は、流罪となりました。
また、密通した人妻も同じく領地没収・流罪と規定されています。
第35条 裁判所からの呼び出しに応じない場合
呼び出しを3回無視した場合は、原告(※訴えを起こした者)だけで裁判を行うとされました。
この場合も裁判はきちんと行われ、原告が負けることもありました。
なお、原告が負けた場合は、被告ではない他の御家人などに領地が与えられることになっています。
第36条 境界線を改ざんして訴えを起こす者について
自分に有利な境界線をもちだして裁判を行い、領地を広げることを禁止しています。
この裁判ではたとえ負けたとしても自分の領地は減らないため、それまではこのような訴えをする者が少なくなかったようです。
そこで、この手の裁判で負けた場合、不当な境界線を持ち出した者の領地を相手に与えることが規定されました。
第37条 朝廷の領土を奪うことの禁止
朝廷の領地(荘園など)を奪うことを禁止しています。
源頼朝が生きているころから禁止はされていましたが、なかなか守られなかったようです。
そこで、御成敗式目制定時に罰則が設けられ、朝廷の領地を奪った者は領地の一部を没収することが定められました。
第38条 惣地頭が荘園内の他の領地を奪うことの禁止
惣地頭(※広い領地を持つ地頭)が、その支配地域内の他の地主の領地を奪うことを禁止しています。
領内でも、自分で田を開拓して独立した地主などもおり、そういった領地を勝手にとってはならないと戒めています。
第39条 官位・官職を望む場合
一部の役職を除き、幕府の推挙なしに朝廷に直接「官位・官職」の申し出をすることは禁止されました。
ただし、年功によって官位を貰う場合はとくに幕府の推挙はいらないとされています。
源義経が源頼朝の許可無く勝手に朝廷から官位をもらって対立したことの反省が生かされています。
第40条 鎌倉の僧侶の官位
僧侶が勝手に官位をもらうことを禁止しています。
これはたとえ鎌倉の僧侶であってもダメだとされています。
若い僧が、年長者や高僧を官位によって飛び越すことは、寺の秩序が乱れるため禁止されていました。
第41条 身分の低い人々のこと
人身売買は禁止し、「今すでにいる奴隷のような扱いを受けている人」も10年間使役がなければ、その奴隷のような身分から開放されるという規定です。
第42条 逃亡した農民の財産
領内の農民が逃亡したからと言って、その妻子から家財を奪ってはならないとされました。
未納の年貢があるときはその不足分のみを払わせることとし、残った家族がどこに住むかは彼らの自由にまかせることとされました。
逃げた農民の家族には罪がないとした規定です。
第43条 他人の領地と年貢を奪うことの罪
理由もなく他人の領地や年貢を奪った場合、速やかにそれらを元の持ち主に返却させ、奪ったものは領地没収とされました。
その者が領地を持たない場合は流罪とされています。
第44条 係争中の土地について
裁判で係争中の土地を望んではならないとされています。
裁判では当事者以外の発言は取り入れないとし、第三者が裁判中の者について不当な発言をすることを禁止しています。
第45条 判決前の免職
裁判で判決が出る前に被告を免職(※職を辞めさせること)してはならないとの規定です。
有罪無罪がはっきりしてから罰を与えるようにとされました。
このあたりは、現在の「推定無罪の原則」にも通じるところがあります。
第46条 国司交代時に関すること
国司交代のときに、新しい国司は前任国司の私物を襲ったり恥をかかせたりしてはならないとされています。
ただし、前任国司が罪を犯して交代した場合はこの限りではないとされます。
第47条 領地寄進について
実効支配していない領地なのにも関わらず、有力者に寄進し実効支配を行おうとした者は追放とされました。
それを受け取った者には寺社の修理の罰が与えられます。
また、勝手に領地を貴族や寺社に寄進することも禁止されました。
第48条 所領売買の禁止
先祖代々の土地を売買することは認められていたものの、将軍から与えられた所領については売買が禁止されていました。
この規定に反した場合、売った者も買った者も罰せられます。
第49条 両者の提出した文書だけで判決が出る場合
原告・被告両者の提出した調書だけで裁判ができる場合、わざわざ両者を呼び出すことなく直接判決を言い渡すという制度が明文化されています。
第50条 暴力事件への参加
暴力事件が起きた時、その詳細を調べるために現場に行くことは問題ないが、一方に味方するために行くことは処罰の対象となりました。
第51条 被告人を脅すことの禁止
原告が被告に対して尋問状の威力を使って脅すことが罪になると規定されました。
尋問状とは、訴えが受理されたあと、裁判で相手にする質問内容を書いた紙のことです。